rainy

或る雨の日


昼なのに薄暗い雨の中、
「どうしたの?」
不思議そうにキョーコに声をかけたのは、蓮。

キョーコは、はたと、足を止めます。
思いあまって、ロケ先を訊ねたものの、何か用事があったわけではありません。
・・・ただ、姿を見たかっただけ。
・・・そんなこと、言えないのに。
「最上さん?」
近寄ってくる大きな人。
翳している傘も大きくて、キョーコとの間を遮る雨脚がどんどん少なくなります。それは幕が一枚一枚開いていくようで。
心配そうにキョーコを見るその整った顔立ちが、黒い瞳が、だんだんとハッキリ目に映ります。

ぽつん

キョーコの傘に大きな雫の落ちる音がして。
隔てる雨の幕もありません。

「・・・・暖めて下さい。」

蓮の顔を見上げたキョーコは思わずそう言ってしまって、頚を傾げた蓮に俯いてしまいました。
なのに、俯いた視界にうつったのは、蓮の左腕で。

そっと伸ばされたその腕が、キョーコの傘の柄を掴んで、傘を揺らしました。

ざああ

雨脚が強まったように、キョーコが感じた、その瞬間。

ぐっと腰に廻された右腕に引き寄せられて、ぽすん、と広く暖かい胸に包まれました。

ほわん

ぎゅう

キョーコを包み込むその腕に力が籠ります。
頚を傾げたのは、さしていた傘の柄を抑えるためだったのだと。
「こんなに冷えきって。」
耳許に囁く声に、キョーコはその両手で蓮のシャツを掴みました。

ドウシタノ?

そう尋ねられるのが、怖くて、寒くて、キョーコはしがみ付くようにして、顔をその両手に埋めてしまいました。

キョーコの腰にまわされていた逞しい腕がそっと背を肩を包み込みます。
カタカタと身体がぎこちなく震えるのを、キョーコは自分でも止めることが出来ません。
それでも、、
しがみついた指の先から、じんわりと暖かくなるのがわかります。
そう、背中を包む腕の、大きな掌の暖かさも、冷えてかじかんだ気持ちを解していきます。
「これじゃ、暖めきらないか、な。」
小さく零れ落ちた声に、キョーコは首をふりました。
抱きしめてもらえた、それで、もう、心があたたかくなったのですから。


「ごめんなさい。」
ここはロケ先。仕事中の先輩に、一体何を、、回り始めた思考が、キョーコの頬をかぁッっと染め上げました。そして、掴んでいた両手を一気に伸ばして、離れようとしたのです。
ですが、キョーコを包み込んだ腕は、そうはさせませんでした。

「濡れてしまうよ。」
真っ赤に染まったキョーコの耳元に囁く低い声。
「・・・もう撮りは終わったし、移動だから。」
まるでキョーコの懸念を聞いたかのように、低い声が語ります。
「すみません。」
「なんで謝るのかな?」
そっと、キョーコの髪を頭を撫でる掌。
「俺は、君には、いつだって頼られたいんだけど?」
「そ、そんな言い方っ。」
勘違いさせないでください、と言いかけたキョーコの口が閉じました。
・・・君には・・・
そう、それは「誰にでも」を打ち消す言葉です。

トクン

キョーコの心が暖かい血液を送り出します。

「送るよ。」
「ありがとうございます。」

さあああああ
雨脚が強くなり、景色には数枚のグレーの幕がかかっているようです。
屹度、この姿は他人には見られないでしょう。

「暖めた御礼が欲しいな。」
くすっ
抱き寄せた腕を緩めて、蓮が悪戯っぽい笑みを浮かべてキョーコの顔を覗き込みました。

「そ、それはっ。」
真っ赤になったキョーコが少し後ずさり。

くすっ
蓮がまた笑います。
「何を想像してくれたのかな?」
そっと、歩くように促す腕に、キョーコは従って。

二人は大きな傘の下、身体を寄せ合って、ゆっくりと歩き出したのです。

その時、重く垂れ込めた雨雲が少し切れて、隙間からきらりと陽が差したようでした。


~おわり~




web拍手 by FC2 初出:2014/10/27

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