コイバナ

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「キョーコちゃん、ここで会えて良かったよ~」

社が事務所のロビーでキョーコに声をかけてきた。近くに蓮の姿はない。
「おつかれさまです。何か?」
社は移動中なのか、帰り支度なのかコートも着ている。
「ちょっと教えてもらいたい事があって、少し時間大丈夫?」
「大丈夫ですよ?ちょうど帰るところでしたから。」
「ありがとっ!」
社の両手が、いつものようにハシっと合わされて、満面の笑顔をキョーコにむける。
「それで、なんでしょう?立ち話で、大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫。、、昨日もらったクッキーのレシピって、教えてもらうことできるかな?と。」

・・ああ、昨日そうだった、クッキー差し入れしましたね。カロリー控えめの。
で、リクエストではなくて、レシピ?
「あのう、また作りますけど?レシピでいいんですか?」
社の表情が戸惑っている。
「そりゃ、作ってくれるのは大歓迎なんだけど、、」
「え、社さん、実はお菓子作りが趣味だったんですか?」
社が固まった。
「うん、まあ、いいや、そう思ってくれても。」
眼鏡の奥の瞳が少し泳いでいる。
「いいですよ~内緒にしますね。で、レシピはメールでも大丈夫ですか?」
「わあ、ありがとう。キョーコちゃん、恩にきるよ。」
にっこりと社は柔らかく微笑んだ。
「いえいえ、そんな。お役に立てるならレシピぐらい。」
キョーコもその笑顔につられて、微笑む。


 **

「あの、社さん?」
控室でいつものように、手帳と携帯とをにらめっこしている社だが、蓮には何か違和感がある。

「悪いちょっと。」
ささっとメモをかきつけると、社は顔を蓮にむけた。
「蓮、すまん。何?」
「いえ、何っていうことではないんですが、、、珍しいっていうか、、さっき、スタッフに聞かれたんですけど、、、。」
「何かあった?」
トラブルはいやだよ、という社の表情。
「、、、社さんの首のこのへんに、、。」
蓮は自分の首の付け根を指し示す。
「!!!!!」
社の顔色がみるみる真っ青になっていく。
赤くならずに、青くなるんだ、、などと、蓮は感想をもってみたけれど。

「いや、あのだから、彼女さんがいるんですかって聞かれて、どう答えたものかと。」
「すまんっ!そんなことっ、俺、最低だ。」
社がガバッと頭を垂れる。そのせいで、首の付け根に赤くしっかりついた痕が、はっきりみえる。
「これヤケドなんだ。だから、ちょっと襟元を緩めにしてたんだけど、まいったな。」
ヤケド?不審に思うがそこはつっこめない。
「そんないいですよ。でも、それで申し訳ない気がして。」
「へ?」
「俺のスケジュールで、社さんのプライベートって無いようなものだよな、と。」
社の表情は苦笑いになる。
「それは、お互い様だろう?」
「けどそっか、確かにキョーコちゃんのおかげでオフ作るようになったから、俺もすこし考えるかなぁ。」
にやりと社が笑う。


「敦賀さん、社さんて、、、」
キョーコはうっかり話しかけて、レシピの話題が「内緒」であったことを思い出す。
「社さん?ああ、彼女がいるって噂?」
蓮の表情はキョーコを探るようでもあり。
内緒のレシピに触れなくてよかったけど、困ったと、キョーコは思いながらうなずく。
「社員さんやらスタッフさんに聞かれて、社さんの彼女バナシってきかないなぁって、あらためてびっくりしたというか。」
敦賀さんと親しいから知ってる?とキョーコもさりげなく質問されていたのだ。

「意外とプライベートな話しない人だから、仕事以外のことは俺もほとんどわからないんだ。」
「そうなんですか。」
あぶないあぶない、キョーコはレシピの事を話さないで良かったとほっとする。

「社さんの噂のきっかけってキスマーク疑いなんだよ。」
くすっと蓮が笑い、キョーコは固まった。
「・・ハハハハハ、さすがオトナな感じですね。」
おもいっきり逃げ腰になるキョーコに、蓮が微笑みながら。
「でもね、ヤケドだっていうんだ。」
「へ?」
「首のこの辺なんだけど、普通ヤケドするかな?」
蓮が自分の首を指す行為にキョーコは真っ赤になる。
「っっっさあ、ワタクシにはさっぱりそういうことは、あの。」
「彼女がいるならいるで、教えてくれてもいいのになぁと。」
「・・・そうですね。」



「じゃ、俺は電車で帰るから。明日は局で合流でなっ。」
社は手を軽く振った。
「え、送りますよ。」
蓮は少しひきとめる。
「いいって、寄りたいところがあるんだ。気にしないでくれ。」
「わかりました。おつかれさまでした。」
「おつかれさま!」
笑顔で帰っていく社の姿をもうこれで何回見たことか。
「タクシーで寝て帰る。」とか、「事務所に用がある。」とか。
「キョーコちゃんを送ってやれ。」
キョーコを送るように仕向けることは、社的にはマネージャーの仕事の範疇になっているらしいから、現場解散が増えたのかと蓮は思っていた。
ただ、それに伴い現場集合も増えた。
朝はスケジュールの確認などを車内で済ますことも多かったから、その機会が減ったというのは少し気になる。

「手袋が変わったんですね。」
ラブミー部でキョーコが何気なく発言し、「ああ、そうか。」と蓮が思ったのは、社に何か違和感があった理由が、携帯電話を持つグローブにあったのだとわかったからだった。
「キョーコちゃん、目敏いねぇ。蓮なんか、今頃ああ、そうか。だよ。」
ふーっとおどけて、社がグローブを外している。
「あれ、外し方も変えたんですか?」
手首から外へ折りたたむようにして外している。以前は引っ張ってたはずだ。
「ばれたか!実はプロに教えてもらったんだ。種類もね。」
にこやかに語る社に、蓮は少し首を傾げた。
自分が医師役を演じていた時に、グローブのつけはずしは医事監修で社も見ていた。だから、今さらな気がする。
「プロって?」
キョーコは素直に質問する。

「医者。内科医なんだけどね、こういうグローブは使うからって。」
「へェェ、社さんお医者様のお知り合いがいるんですね。」
キョーコの言葉に、社が苦笑いする。
「風邪でお世話になった時、グローブを不審がられてね。理由を説明したら、色々教えてもらっちゃって。」
「え、風邪ってずいぶん前のお話ですよね。」
社が風邪で倒れたから、キョーコが代マネをしたのは、、。
「いや、また、ちょっと調子崩してさ。」
休む程じゃなかったんだよ、ただ、転ばぬ先の杖かなって、病院に行ったのだと社は苦笑した。
「そう、食生活が基本て怒られたよ。」
「そうですよ!ただでなくともお忙しくて大変なんですから~」
「だからね、一緒に行動する誰かさんの食生活が、、、、」
そこからは、キョーコの食生活への説教が続いた。


「そういえば、レシピ大丈夫でした?」
キョーコは蓮が車を取りにいった隙に、社に訊ねた。
「うん、大丈夫だったみたいだよ。どうもありがとう。」
「だったみたいって?」
社の表情が一瞬シマッタという顔になる。
「や、ゴメン。俺が作ったんじゃなかったから。」
「、、、どなたがお作りに?」
「食べさせてもらったら、キョーコちゃんのほどではなかったけど、美味しかったよ。」
「あの、ですから、どなたが作られたんですか?」
「、、興味あるんだ?」
社は視線を外して天井を見た。
「キョーコちゃんに手伝ってもらったようなものだしな。」
「は?」
「さっき、手袋の話したよね?」
「はい。」
「その先生、女性なんだよね。で、料理はわりと作るんだ。」
社がにっこりと笑う。
キョーコは目を見開く。
・・・それは、彼女さんてこと?もしくは攻略中っていうか、えっと。
・・・私が赤くなってどうするのよ~っ
「キョーコちゃん、他人の恋バナは察しがいいんだね。」
社がやや蓮に似たため息をついた。
「なんか変な噂にもなってるみたいだし、なんとか収拾つけなきゃ、なんだよね。」
「あの、概ね好意的な噂だと思いますが。」
キョーコはうわずった声でそう答える。
「キスマークじゃないんだよ、ほんとに。」
社が首を垂れる。
「マネージャーとして、最低なんだよなぁ。」


「ヘェ~社に恋人、ねぇ。」
社長はニヤニヤするばかり。
「ただ、タイミング悪くケガして、それをキスマークと誤解され噂になったので、プライベートに立ち入るつもりは無かったんですが。」
説明している松嶋主任がしどろもどろ。
「蓮のマネージャーとしては迂闊だったってか。」
「マネージャーが噂になるなんてって、ずいぶん気にしていたものですから。」
「ほっとけ、そんなもん。」
社長の顔は愉しくてしかたないぞっていうところ。
「社が気にしてるほど悪評じゃねえし、蓮とできてたわけじゃないって安心されてるからな。」
松嶋主任が固まる。
「はぁ、まぁ。私も噂は気にするなと言ったんですが。」
「だいたい、噂になるぐらい注目されてるんだって、うかれてりゃいいのに生真面目だな。」
「そこが彼のいいところなので。」
「この際、ちょっとはあてられりゃいうことないんだけどなぁ~」
「はあ?」


「え、じゃ、もう1年以上になるんですか?」
蓮は少し呆気にとられて、社を見た。
「すまん。こんな噂がたつぐらいなら、話とくべきだった。」
「いや、謝られるような話では、、、。」
「噂もなんだけど、お前はキョーコちゃんに手こずってるのに、その横でうかれてるのはどうかと思って、切り出せなくてな。」
「…それは、まあ。」
車内に沈黙が流れる。
「しかも、なんていうか、芸能界とか全く興味ないらしくて、、そこは安心なんだけど。多分、お前にあわせてもリアクション無いっていうのもちょっと複雑な気持ちで。」
「社さん?」
「だってさ、俺は自分の仕事にプライドもあるわけだよ。いくら興味が無いからって、蓮を知らないっていうのはさ、俺の仕事を知らないって事だろう?」
ぷっと蓮は吹き出した。社の仕事熱心にはやっぱり頭があがらない。
「わかりました。素敵な人なんですね。」
「まあね。だからさ、早いとこキョーコちゃんとくっついてくれ。」
「は?」
「のろけようにもさ、片想いでウダウダしてるお前にいってもつまんないから。」
「つまんないって。」

「だってさ、本当にヤケドって信じただろう?」

キーっ!車のブレーキが思いっきりかかる。信号は赤。
「、、、、蓮、まさか本当に純情とかやめてくれよ。イメージじゃないから。」
「社さん、、、。」
「いろいろ勉強になったし、二人をフォローできる自信はついたよね。」
「あの、まさか、故意に噂流したんですか。」
「まあ、なんだ。そこは、野暮だろう?」


社 倖一、26歳。敏腕イケメンマネージャー。
その笑顔の裏の顔は謎・・・・




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初出:2013/11/14
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