I wish I could be there!

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「貴島くんて、久遠・ヒズリと親しいんだよね?」

それは、ドラマの打ち上げの席でのこと。
スタッフ仲良く撮ってきたドラマは視聴率も良く、局側が打ち上げの席を設けてくれるぐらいだったから、皆楽しく飲んでいた。
ビールからハイボールに飲み物が変わったその辺りで、隣に座っていた番組ディレクターが貴島に訊ねたのだ。
「まあ、親しくないと言ったら嘘になっちゃいますかねぇ。」
ちらっと向こうのテーブルでにこにこしている京子を、貴島はうかがいながら、答えた。

 *

ドラマでヒロインだった京子に、勘違いしそうになる事しばしばだった貴島にとって、久遠・ヒズリは、、微妙な存在だった。
少し薄暗い店内の照明に時々キラリと光る京子の薬指の指輪。今も京子はその指輪について、共演女優に絡まれている。
・・・婚約指輪、ねぇ。
貴島はぼんやりと思いを馳せる。

『敦賀蓮、ハリウッドへ!』
『実は、クーヒズリの一人息子だった!』
『騒ぎの渦中に婚約、事務所公認のお相手は、お嫁さんにしたい女優ナンバー1になったばかりのアノ女優!』

敦賀蓮=久遠・ヒズリ
大騒ぎされてアメリカへ帰っていったのは、もう、去年の事になった。
おかげで貴島は晴れて抱かれたい男ナンバー1。

だから、このドラマは当初から注目されていたのだ。
京子は貴島秀人をも、たぶらかすのでは?と。
バッシングこそなかったが、キャスティングが発表になったときは結構な騒ぎだった。
「まあ、その騒ぎも狙ってたので。」
今、貴島の隣に座るディレクターはケロリと記者会見で言ってのけた。
「恋愛ドラマで、このキャスティング、しかも恋愛の神様って春原先生の脚本ですよ?期待してください。」
実際、ドラマ上の二人の関係に引き込まれた視聴者からは、貴島の略奪愛⁉︎と話題にもなった。

が、しかしである。
Dark Moonのあと、「直接声が聞きたいだろう?」と貴島を脅した、あの男は、、
恐ろしい程マメだった。
貴島はグラスを少し煽った。

ドラマ撮影後、京子を食事に誘えば、すかさず送られてくるメール。
時差もなんのそので、、、貴島のスマホに送られてくる、"from 久遠"メール。
"京子をよろしくお願いします。"と。
「京子ちゃん、彼から俺にメールが来たんだけど?」
京子が頬を染めて、頭を下げた。
「あの、打ち上げとか出るのは駄目だって、あんまりにうるさいので、喧嘩しちゃったんです。」
「ま、付き合いも大切だもんね。」
「そうなんですよ、、もう事務所の社長さんまで仲裁する騒ぎになりまして、、その結果ですね、、」
「誰とどこに行くのか、報告するんだ?」
「そうなんです。で、貴島さんなら、アドレス知っているから、ちゃんとお願いしておくね、って、、。」
「すごい、大事にされてる感じだね。」
「まぁ、その、なんといいますか。」
テレテレと顔を赤くする京子に、貴島はもう、この遠距離恋愛の行く末を見守る気持ちになっていた。

そして、貴島は律儀に、帰宅する京子の写真を、、久遠宛に送る。
この半年近くで、すっかり、京子の兄が身についた気がする貴島である。久遠もまた、何気ないメールも送ってくるようになった。
『京子ちゃんの写真の御礼にさ、ハリウッドのゴージャスな女優の写真を送ってくれよ』
そう軽口を送って、返ってきた写真は、、
確かにゴージャスだったが、、
明らかにふざけて投げキスしている、、、、ジュリエナ・ヒズリだった。

冗談なのか?
まわりまわって京子ちゃんに浮気だと思われかねないと、策を講じたのか?
・・マザコンなのか?

 *

「で、久遠を訪ねて、アメリカ旅行って企画があるんだよ!」
隣で、にこにことディレクター氏が言った。
「は?」
「マネージャーさんに確認したら、旅行に行くって、休暇とるんだよね?」
うっ
うっかりマネージャーめ!
旅行というのが箱根あたりで、できたてホヤホヤの彼女を誘って温泉三昧、とは、口が裂けても言いたくない。
「アメリカ旅行なんて、また、随分と景気のいいお話ですね。」
まあ、確かに、以前と違って、売れなくなったタレントの旅情報番組、というのは減った。ちょっとウンチクのある上質の旅の紹介に「知的俳優」とかが起用されてるのは、貴島も良くわかっている。

「うん、2週間ぐらい、貴島くん一人旅でさ、どうよ?」
「一人旅?」
「そ、ハンディカメラでさ、撮ってくれるのがいいかなって。ま、途中、撮影隊も行くけど。」
「空港からさ、敦賀くん迎えにきてくれるってさ。」
「・・・それほぼ決まってんじゃないですか。」

「まあね、京子ちゃんにご褒美企画だったんだよ、最初はね。」
ディレクターがそう言って、ツマミに手を伸ばした。
「ご褒美企画・・・」
貴島は少しぼんやりと、グラスについた水滴が落ちるのをみつめていた。
「ところがねぇ、京子ちゃん、1年先までスケジュールいっぱいいっぱいだし、事務所側がいうには、彼女をアメリカに行かせるのは結婚するときだからっていうんだな。」
「結婚。」
「それでね、貴島くんには、キューピットもしくは愛の宅配便をやってもらう感じで。」
「お、俺だってスケジュール。。。」
「うん、去年から狙ってた休みとは聞いてるんだけどさ、仕事とはいえさ、、、いや、仕事でお金貰ってアメリカ旅行だよ?別に夜遊びとかまで、拘束しないしさ。」
「じ、事務所と話してから、返事させてください・・・。」
楽しい呑みだったのに、貴島の身体から、アルコールはあっという間に抜けていった。
「うん、いい返事しかききたくないからね、よろしく!」
押しの強さあっての辣腕ディレクターはそうにこやかに言って、別のテーブルに渡っていった。


 *

「なんで、俺なんだよ。」
もう、それはそれは楽しみな「休暇」。
そう、これが、以前から仕事に組まれていたら、文句なしにホイホイ行ってやるというのに。
・・・・違うな。
俺が休むと知ったから、旅行プレゼントついでに番組にしたな・・。
京子ちゃん同様、俺のスケジュールだってガッチガチなのだ。
・・・くそう、予算使うだけ使って行ってやる!!!!

貴島は据わった眼で、事務所の社長を見ていた。
「受けますが、かわりの休みも作って下さい。」
「わかった、努力する。」
「努力じゃ、ありません、誓約です!!」
「いや、ほら、ヒデもチャンスだろう?ハリウッドなんてさ、コネクションつけてきてだな、そうなったら休んでる場合じゃなくなるだろうし!」
椅子から乗り出した社長は、どこかの芸能事務所の社長と比べたら、ただの人の良いおっさんではあるのだが。
「・・・・俺、ハリウッドなんて目指してませんが?!」
「なんだ夢は大きくって教わってこなかったのか?」
「社長、酔ってませんか?・・俺、リアリストですから。」
「なんだよ、せっかく、久遠・ヒズリと友情があるくせに!!」
「だからですよ、あっちがそんなに甘いところじゃないって、俺は知ってるんです。」

行くからには楽しい旅行にしたいし、良い仕事にしたい。
・・・ゴージャスな美女と楽しい夜もあるに違いないしなっ!
・・いや、まて、久遠、、つまり敦賀くんだぞ?女関係は望めない、お固い男だぞ?
ほんとはアメリカ人だってきいて、アノ重い男が?!と信じられなかったぐらいじゃないか!
番組企画は、友情とその遠距離恋愛を応援する感じを、いかにもアメリカなその地で撮れればいいのだという。
5日後には撮影隊が合流するから、旅の流れはそこで調整するというし、
受け入れるロサンゼルス州は観光客を見込んで、かなり融通をきかせてくれるらしい。

実際、話が決まって、貴島はアメリカ大使館に招かれた。
ビザのこともあるし、手続きもあったのだが、観光へのイメージ戦略には余念がないらしく、大使の意向で夫人達と出発前のセレブレーションという感じで、ちょっとした昼食会がもたれたのだった。
「アメリカと日本を繋ぐ、恋ですもの。」
夫人がにこやかにそう言った。
「応援したくなるじゃないですか。」
カメラの前でにこやかに、やりとりをしながら、貴島の気分も上がってきた。

「恋愛大使・貴島秀人」

そんなベタな肩書きがつけられるとは夢だに思わず、
少し気合いを入れて、英会話の教材を撮影の合間に聞いては学習する貴島だった。
 *

「京子ちゃん、ごめんな~まあ、奴の土産は貰って帰ってくるし。」
「貴島さんこそ、すみません。せっかくのお休みがお仕事なんて。」
「いいって、いいって。休みにお金貰って海外旅行なんてさ~渡りに船って!」
京子がくすくすと笑う。
「じゃ、すみません。ちゃんと好き嫌いせずにきちんとご飯食べてるか、それだけ、お願いします!」
「・・・京子ちゃん、心配はご飯なの?」
「はい、それ以外は心配してません。」
びしっ
京子の顔は生真面目そのもの。
「変なこというようだけどさ、、浮気とか、心配じゃない?」
貴島は少し揶揄いたいというか、、心配になってそう訊ねた。
「・・・毎朝毎晩、電話があるので、、。」
ほにゃり
京子の顔が柔らかく蕩ける。
「・・・そっか・ごちそうさま、、、食あたりしないように、頑張ってくるよ。」
「はい!」
京子から久遠宛に預かったのは、小さな包み。

・・・きっと、俺の荷物を増やさないようにと、配慮してくれたのだろう。
・・・彼女はそういう子だと、思う。
・・・その一方で、帰りの荷物はうんざりしそうな程、重くなりそうな予感がした。


そして、貴島秀人は、ハンディカメラを片手に日本を出発したのだった。








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