Myth.BLUE BELL

Act 5.地縁


開け放した窓の向こう。
人家や街路の明かりが少ないために、暗闇が濃く見える。
遠くに小さく光って消えるのが、車のヘッドライトだ、と気付いたのは、この屋敷から車が一台出て行くのが見えたからだ。


オープニング


夕食がそう遅い時間でもなかったし、呑みながら怜とゆっくり話をしようかとした剣だったが、さすがに地元にもどってきた代議士親子に、その余裕はないらしい。
「顔だけは出しておかないと、あとあと面倒なんだ。」
父親とは別に挨拶にいかねばならないのだと、怜が苦笑した。
「ああ、そうか。」
酒を酌み交わして、それで固める地縁があるのだろうと、剣は推察する。
「すまん、明日の夜はあけてるから、そこで。」
「ああ。」
「いい店でもあれば、紹介するんだけどさ、、、わるいね。」
怜の苦笑が続く。
「このへんの夜景でも肴にして、テキトウに飲んでくれていいからさ。」
「わかった、星空でも堪能させてもらうよ。」
剣がかえした言葉に、気障だなぁと、怜は楽しそうに笑った。

「あ、でもな、夜の森と灯台に近づくのは、やめてくれよ。」

「?」
いぶかしげな剣に、怜が真面目な顔つきになる。
「この辺、田舎だからさ、、悪いのがうろついてるんだ。連中といざこざはちょっと。」
拳を鼻にあてて、怜がいかにも頭を悩ませてるという態度を見せた。

「あぁ、バイクの連中なら、昼に見かけたな。」
灯台のあたりで、エンジン音を派手に鳴らして、改造したバイクを乗り回すグループを、剣は思い出して口にした。
「・見ちゃったか。」
チラッと翳めた険しい表情。
「お子様の遊び程度に見えたけど?」
10人はいただろうか、お互いの名前を大きな声でよびあって笑う顔は、どうみても十代という雰囲気だったと剣は思い浮かべる。
「まぁ、そうだけど、、子供の方が厄介だろう?」
苦笑する怜に、剣も笑みをかえした。
「そうだね、絡まれないようにするよ。」
「じゃ。」
そう言って、軽く手を挙げると、怜は部屋を出ていった。

部屋でグラスを傾けて、剣は灯台でみた風景を思い出す。

陽の光に反射するバイクのマフラー。
海辺に似つかわしくない騒音。

そういえば、蝶子もあの岬へは近寄るなと言われていると言っていた。

・・・不良の溜り場だから。

そう思って剣は「不良」などという単語が何か
古めかしいようにも思えて、首を傾げた。
東京でバイクで暴走したりするチームの姿など見かけない。群れて何かという十代が消えたのではないだろうが、あんな光景はドラマか映画でしか見ない。

怜が剣に言ったように、蝶子も家の者達から言い含められているのだろう。
連中と関わり合いになるなと。

くいっとグラスの中身を口に含んで、剣は夕食時の蝶子を思い出した。
・・・ちゃんと心のこもった表情をしていたな。
それは笑顔ではなく、父や兄に必死に訴えるものだったけれど。
そう、蝶子の笑顏は、、笑っていない。口の端をあげただけの感情の感じられない笑顔を向けるのだ。
にーっ、、と。
話しにくいと剣が感じた理由は、たぶん、そのお人形のような表情だったのかもしれなかった。

・・・山延は、いい奴だから・
蝶子をその作り笑いでない笑顔を導き出していたのかもしれないし、見たのかもしれない。
彼女の思うところがどうであれ、それでも、山延はよかったのかもしれない。

剣はそこまで考えて、クスっと自嘲した。
・・・他人のことを考えている場合じゃ、ないだろう。

コトン

手にしたグラスをテーブルにおいて、剣は鞄から資料とノートPCを取り出した。
PCを立ち上げて、その間に資料にかけた紐の特殊な結び目を確認して、解く。
父が頓挫した開発計画の当時の資料。
この土地に関わる事を知った、父が黙って差し出してきたもの。

「いずれ、話しておこうと思っていた事だ。」

さすがに、全てをここに持ってくる無謀はしていない。
現地を見るのに必要と思ったものを選んで、しかもコピーしたものだから、いざとなれば焼いて棄てるぐらいの心算(こころづもり)。

鳴海代議士と父の縁。

彼らが若かりし頃に抱いた夢と計画。
「あいつも苦労したんだよ。」
私ばかりが損を引いたわけじゃない、と父が苦笑していた。

・・・入り婿。

そんな立場では、地元を動かすだけの権力を持ち得ない。
怜の言葉も態度も、この鳴海家のすべては母が継いだものと言っていた。
母の子であるから、怜はこの家を継ぐのだと。

古い家柄の、血統に拘る一族のプライド。
そして、地縁。

「俺の代になれば、動かせるものがあるんだ。」
そう言い切った怜の自信の源。

剣はまたグラスを煽った。

「お前になら、できるかもしれんなぁ」
資料を渡してくれた父の顔に浮かんでいたものは、寂寥で。
剣は父を超えたいと願うのに、叶わないような気がしてしまったのだった。
この事業を成し遂げたなら、少しはその願いが叶ったと思えるだろうか。

ーーチリン

ふんわりとなにか甘い香りがして、足元に柔らかなものが触れた。
擦り寄ってきたのはあの白い猫。

白い猫が真っ赤なリボンをつけていた。

「ずいぶんと遅いご帰宅だね。」

剣はそっとその小さな頭を撫でると、猫を抱き上げた。
抵抗することなく、剣の膝上に乗せられて、ゴロゴロと喉を鳴らす。

「そういえば、お前の名前、聞くのを忘れたよ。」

ーーーリリン、リン

撫でろと云わんばかりに猫が剣の手に鼻を耳を擦り付ける。触れる硬質の感触。

「鈴?」

剣は猫を撫でながら、その首輪を廻して、つけられていた鈴をじっと観察する。
・・・ちょっと変わった形の鈴だな。
小ぶりなのに、音がよく響く。
銀色の鐘(つりがね)を模した形。丸い鈴ではない。

ーーチリリン、チリ、チリ、

猫がぷるぷると首を振ったので鈴がよく鳴った。

・・・花の形?リンドウ?
そう思って、剣は軽く首を振った。
一面に咲く青紫の花々、、

その向こうに見た、姿は。


竜胆

それは、青紫の釣鐘型の花。

「だって、好きなんだろう?」

「そうだけど。」

鈴音は受け取った竜胆の花束を、抱えながら困った顔になる。
差し出した青年は、むっと口をへの字にした。
「嫌なら受けとんな!」
「きゃ」
受け取った花束をまたむしり取られて、鈴音は小さく悲鳴をあげた。

「たくと様、乱暴はおよし下さい。」
間に乳母が入る
チッ、小さな舌打ち。
奪った竜胆の花束を今度は乳母に押しつけた。
「屋敷に客だから、絶対に家から出るなよ、前みたいな事、困るからな!」
そう言い捨てて、ずかずかと去っていく。
鈴音はへなへなと近くにあった椅子に座り込んだ。
・・・・どうして
鈴音は困ったような表情のまま、竜胆を見つめた。

「せっかくですからね、いけましょう。」
乳母がてきぱきと動き出す。
「奥のお部屋に広げますよ?」
座り込む鈴音に乳母は声をかける。

パチン
鋏を置いて、鈴音がいけた竜胆を覗きこんで、ため息をついた。

「お花は、、家からでるなって、そういうことなのね。」

「鈴音様。それは。」

「いいの。仕方ないから、、一番綺麗な時期なのに、見に行けないのが、寂しいだけ。」


ーーーチリリン、リン
そよいだ風に風鈴が、鳴った。




森

ブロロロ

車の音に剣が気づいたのは明け方の事だった。

剣は資料をあたって確認しておきたいポイントを決めると、PCで本社からのメールを確認して、いつもより随分早めに就寝していた。
『少しはごゆっくりご休養下さい。』
秘書室長のメールの文面を思い出し、苦笑する。
ここで気をもんでも、何も変わりはしないのだと思ったら、眠気に誘われたのだ。

海を望む景色と高原のような空気。
こんな環境はもう貴重なものだ。

リゾートには、向いた土地。
実際、剣はいつもよりのんびり過ごす気になっている。
・・・猫に話しかけるだなんて、な。

夜半に訪れた白い猫はひとしきり剣に甘えると、また、ひょいと部屋を出て行ってしまっていた。
・・あの赤いリボンは、何時(いつ)つけられたものなんだろう。
ついていたはずのスス汚れも綺麗になっていた。
・・ま、これだけ使用人がいる屋敷だ。猫の世話係もいるんだろう。

バターン!

階下でドアが乱暴に開かれる音がして、剣はさすがにベッドから身体を起こした。
車で戻ってきたのは代議士か、怜か。
運転手付きだから、深酒でもしたのだろうか。

「なんですかっ!騒がしい!!」
其の声はヒステリックで刺々しい。
部屋ごとの壁も厚いこの屋敷で、他の部屋の音はあまり聞こえないのだが、、
窓を開けていたから、、それは外から聞こえたのだった。
「お前は、、この家は、、一体なんなんだ!」
それは、代議士の絞り出すような声だった。

「なんだというのです?」

「俺はただの道化か、飾りか?」

「一体どんなお酒をお飲みになられたんです?」
ヒステリックだった声が、ただの冷静な声音になった。
かたん
窓が閉まる音がして、それきり、声が聞こえなくなった。


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**Cast**

敦賀 蓮
貴島 秀人

京子
飯塚 寛子
村雨 泰来


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リレー形式のため、前後のお話はmimi’s world HOPE and DESIREへ飛びます!

mokaは次回Act.7でお目にかかります!

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